龍岡城

龍岡城
所在地 〒384-0412 長野県佐久市田口下町3000−1
公式サイト http://www.sakukankou.jp/sightseeing/tatsuokajou-goryoukaku

龍岡城完全ガイド:日本に2つしかない星形城郭の歴史と見どころ

長野県佐久市田口にある龍岡城(たつおかじょう)は、幕末期に築かれた日本では極めて稀な西洋式の星形城郭です。北海道の函館五稜郭とともに、日本に2つしか現存しない五芒星形の稜堡式城郭として、国の史跡に指定されています。別名「龍岡五稜郭」「桔梗城」とも呼ばれ、信州佐久の歴史的シンボルとして多くの歴史愛好家や観光客を魅了し続けています。

龍岡城の歴史:幕末の先進的な築城プロジェクト

藩庁移転の背景と松平乗謨

龍岡城の歴史は、文久3年(1863年)に始まります。三河国奥殿藩(現在の愛知県岡崎市奥殿町)の藩主であった松平乗謨(まつだいらのりかた、後の大給恒)が、分領である信濃国佐久郡への藩庁移転と新陣屋建設の許可を江戸幕府から得たことが発端でした。

奥殿藩は石高1万6千石の小藩でしたが、松平乗謨は開明的な藩主として知られ、西洋の軍事技術や築城術に深い関心を持っていました。彼は幕府の軍制改革にも関与し、洋式軍制に精通していたことから、新たな藩庁として西洋式の稜堡式城郭を採用することを決断したのです。

築城の経緯と完成まで

元治元年(1864年)、龍岡城の築城工事が開始されました。設計には西洋の築城理論が取り入れられ、五芒星形の独特な形状が採用されました。この星形設計は、砲撃戦を想定した近代的な防御システムで、各稜堡から相互に射線を確保できる構造になっています。

築城工事は慶應3年(1867年)に完成しましたが、その翌年には明治維新を迎えることになります。龍岡城が実際に藩庁として機能したのはわずか数年という短い期間でした。完成からわずか1年後の明治元年(1868年)、松平乗謨は明治新政府の軍務官判事に任命され、藩を離れることになります。

明治以降の変遷

明治4年(1871年)の廃藩置県により、龍岡藩は廃藩となり、龍岡城の城郭としての役割は終わりました。明治5年(1872年)には城内の建物の大半が取り壊され、土地は民間に払い下げられました。御台所櫓(おだいどころやぐら)は移築されて現存していますが、その他の建造物は失われてしまいました。

その後、城跡は田畑や宅地として利用されるようになりましたが、星形の堀と土塁は比較的良好に残されました。昭和9年(1934年)には国の史跡に指定され、貴重な近代築城史の遺構として保護されることになりました。平成に入ってからは、佐久市による保存整備事業が進められ、現在では市民や観光客が自由に見学できる歴史公園として親しまれています。

龍岡城の構造:西洋式稜堡の特徴

五芒星形の設計思想

龍岡城の最大の特徴は、その五芒星形の平面形状です。この設計は、ヨーロッパで発達した稜堡式城郭(りょうほしきじょうかく)の理論に基づいています。星形の各突出部分が稜堡(りょうほ)と呼ばれ、これらの稜堡から隣接する城壁に沿って射撃することで、死角を最小限にする防御システムが構築されています。

函館五稜郭と比較すると、龍岡城は規模が小さく、一辺の長さは約60メートル程度です。しかし、基本的な設計思想は同じで、近代的な砲撃戦に対応するための合理的な構造となっています。

堀と土塁の構造

龍岡城を囲む堀は、幅約10メートル、深さ約3メートルで、星形の輪郭に沿って掘られています。堀の内側には高さ約3~4メートルの土塁が築かれており、この土塁上に建物が配置されていました。土塁は現在も良好に残されており、城跡を歩くことでその構造を実感することができます。

堀の水は近くを流れる湯川から引き込まれていたとされていますが、現在は水堀ではなく空堀となっています。それでも、星形の輪郭は明瞭に残されており、上空から見るとその美しい幾何学的形状がよくわかります。

城内の建物配置

龍岡城の城内には、藩主の居館である御殿、政務を行う役所、武器庫、兵舎などが配置されていました。中心部には本丸御殿が建てられ、その周囲に各種の建物が配置されていたと考えられています。

現存する建物は、移築された御台所櫓のみですが、これは城内の南東稜堡に建てられていた二層の櫓で、現在は佐久市内の個人宅に移築保存されています。この櫓は龍岡城唯一の現存建造物として貴重な存在です。

大手門と虎口の構造

城への出入口である大手門は、星形の一つの頂点部分に設けられていました。虎口(こぐち)と呼ばれる城門の構造は、敵の侵入を防ぐために複雑な造りになっていたとされています。現在、大手門の建物は残されていませんが、その位置や構造は発掘調査などから明らかになっています。

龍岡城の見どころ:現地で体験する歴史

星形の城郭を歩く

龍岡城を訪れたら、まずは星形の堀と土塁に沿って一周してみましょう。全周は約500メートルほどで、ゆっくり歩いても15~20分程度です。歩きながら、各稜堡の突出部分や堀の形状を観察すると、西洋式築城術の工夫を実感できます。

土塁の上を歩くこともでき、そこからは城内や周辺の景色を眺めることができます。春には桜が咲き、秋には紅葉が美しく、四季折々の風景を楽しむことができます。

展望台からの眺望

龍岡城の全体像を把握するには、近くの展望台からの眺めがおすすめです。「であいの館」の屋上展望台や、城の南側にある「田口小学校」の校舎からは、星形の全景を俯瞰することができます。特に「であいの館」は龍岡城の見学拠点として整備されており、展示資料や観光情報も入手できます。

展望台から見下ろすと、五芒星形の美しい幾何学的形状がはっきりと確認でき、その設計の精巧さに驚かされます。写真撮影のベストスポットでもあるので、カメラを忘れずに持参しましょう。

佐久市文化振興課文化財事務所(であいの館)

龍岡城の見学前には、「であいの館」に立ち寄ることをおすすめします。ここは佐久市文化振興課文化財事務所が管理する施設で、龍岡城に関する資料展示や模型、パネル展示などが充実しています。

続日本100名城のスタンプもここに設置されており、城郭ファンには必訪のスポットです。また、御城印も購入できるため、記念に入手する方も多くいます。職員の方が丁寧に説明してくれることもあり、龍岡城の理解を深めるのに最適な場所です。

移築された御台所櫓

龍岡城唯一の現存建造物である御台所櫓は、城跡から少し離れた場所に移築されています。個人宅の敷地内にあるため内部見学はできませんが、外観を道路から見ることは可能です。二層の櫓で、江戸時代末期の建築様式を今に伝える貴重な建物です。

見学の際は、私有地であることに配慮し、マナーを守って観覧しましょう。

城内の田口小学校

現在、龍岡城の城内には佐久市立田口小学校が建っています。これは明治6年(1873年)に龍岡城跡を利用して開校された学校で、日本でも珍しい「城内にある小学校」として知られています。

校舎は一般公開されていませんが、校門付近から城内の様子を垣間見ることができます。また、学校の敷地内には龍岡城に関する説明板も設置されています。授業時間中は静かに見学するよう心がけましょう。

周辺の観光スポット

新海三社神社

龍岡城から車で約10分の場所にある新海三社神社は、信州を代表する古社の一つです。国の重要文化財に指定されている三重塔や本殿があり、歴史的価値の高い神社です。境内は静謐な雰囲気に包まれており、龍岡城見学と合わせて訪れる価値があります。

川村吾蔵記念館

日本近代彫刻の巨匠・川村吾蔵の作品を展示する記念館も、龍岡城周辺の見どころの一つです。佐久市出身の川村吾蔵は、明治から昭和にかけて活躍した彫刻家で、代表作「鉱夫」をはじめとする多くの作品が展示されています。

佐久市の観光エリア

佐久市は龍岡城以外にも、歴史的建造物や自然景観、温泉など多彩な観光資源を持つ地域です。旧中込学校(国重要文化財)、貞祥寺の枝垂れ桜、佐久鯉料理など、信州佐久ならではの魅力を体験できます。

アクセスと見学情報

公共交通機関でのアクセス

鉄道利用の場合:

  • JR小海線「龍岡城駅」下車、徒歩約15分
  • 龍岡城駅は無人駅ですが、城跡まで徒歩圏内です
  • JR佐久平駅からタクシー利用も可能(約20分)

バス利用の場合:

  • 佐久平駅からバスで「田口」下車、徒歩約5分
  • ただし、バスの本数が限られているため、事前に時刻表を確認することをおすすめします

自動車でのアクセス

高速道路利用の場合:

  • 中部横断自動車道「佐久南IC」から約15分
  • 上信越自動車道「佐久IC」から約20分

駐車場情報:

  • 「であいの館」に無料駐車場あり(普通車約20台)
  • 城跡周辺にも若干の駐車スペースあり
  • 観光シーズンや週末は混雑することがあるため、早めの到着がおすすめです

見学時間と料金

見学可能時間:

  • 城跡自体は24時間見学可能(ただし夜間は照明がないため日中の見学を推奨)
  • 「であいの館」開館時間:9:00~16:00(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)

入場料:

  • 城跡の見学は無料
  • 「であいの館」も入館無料

所要時間:

  • 城跡の見学のみ:30分~1時間
  • 「であいの館」を含めた見学:1時間~1時間30分
  • 周辺観光を含めると半日程度

見学時の注意点

  • 城跡の一部は田口小学校の敷地となっているため、授業時間中は静かに見学しましょう
  • 土塁や堀の周辺は足元が不安定な場所もあるため、歩きやすい靴での訪問を推奨します
  • 夏季は虫除け対策、冬季は防寒対策をお忘れなく
  • 展望台からの撮影時は、周辺住民のプライバシーに配慮しましょう

龍岡城と函館五稜郭の比較

日本に2つしかない五芒星形の稜堡式城郭である龍岡城と函館五稜郭。両者には共通点と相違点があります。

共通点

  • 五芒星形の平面形状を持つ稜堡式城郭
  • 幕末期に西洋の築城術を取り入れて建設
  • 近代的な砲撃戦を想定した設計
  • 国の史跡に指定されている

相違点

規模:

  • 函館五稜郭:一辺約125メートル、面積約25,000平方メートル
  • 龍岡城:一辺約60メートル、面積約6,000平方メートル
  • 龍岡城は函館五稜郭の約4分の1の規模

築城目的:

  • 函館五稜郭:箱館開港に伴う防衛拠点として幕府が建設
  • 龍岡城:小藩の藩庁(陣屋)として藩主が建設

現状:

  • 函館五稜郭:公園として整備され、五稜郭タワーから全景が見られる
  • 龍岡城:城内に小学校があり、より日常的な風景の中に溶け込んでいる

建造物の現存状況:

  • 函館五稜郭:箱館奉行所が復元されている
  • 龍岡城:移築された御台所櫓のみが現存

龍岡城の文化財としての価値

国史跡指定の意義

龍岡城は昭和9年(1934年)に国の史跡に指定されました。この指定は、日本における西洋式築城術の受容と実践を示す貴重な遺構として、その歴史的・学術的価値が認められたことを意味します。

幕末期の日本は、黒船来航以降、西洋の軍事技術を急速に取り入れる必要に迫られました。龍岡城は、そうした時代背景の中で、小藩でありながら最先端の築城技術を導入した先進的な試みの証です。

続日本100名城への選定

平成29年(2017年)、龍岡城は「続日本100名城」に選定されました。これは、公益財団法人日本城郭協会が、既存の「日本100名城」に続く重要な城郭として選定したもので、龍岡城の歴史的価値が改めて評価されたことを示しています。

城郭ファンの間では「スタンプラリー」の対象としても人気があり、全国から多くの愛好家が訪れています。

保存と活用の取り組み

佐久市では、龍岡城跡の保存と活用に継続的に取り組んでいます。土塁や堀の維持管理、説明板の設置、「であいの館」での情報発信など、史跡を後世に伝えるための努力が続けられています。

また、地域の小学校が城内にあることで、子どもたちが日常的に歴史遺産に触れる環境が整っており、地域の歴史教育にも貢献しています。

四季折々の龍岡城

春:桜と新緑の季節

春の龍岡城は、桜が咲き誇る美しい季節です。土塁や堀の周辺に植えられた桜が満開になると、星形の城郭が桜色に彩られます。4月上旬から中旬が見頃で、地元の人々や観光客が花見を楽しむ姿が見られます。

夏:緑豊かな城跡

夏の龍岡城は、濃い緑に包まれます。土塁や堀の周辺の樹木が生い茂り、涼しげな雰囲気を醸し出します。ただし、夏季は虫が多いため、虫除け対策をしっかりと行うことをおすすめします。

秋:紅葉の美しさ

秋の龍岡城は、紅葉が美しい季節です。10月下旬から11月上旬にかけて、堀の周辺の木々が赤や黄色に色づき、星形の城郭を鮮やかに彩ります。澄んだ秋空の下、歴史散策を楽しむには最適な季節です。

冬:静寂の城跡

冬の龍岡城は、雪に覆われた静寂の世界になります。佐久市は内陸性の気候で冬は寒さが厳しく、雪が積もることもあります。雪化粧した星形の城郭は幻想的な美しさがありますが、足元が滑りやすいため、見学時は十分な注意が必要です。

龍岡城を訪れる際のモデルコース

半日コース(約3~4時間)

  1. JR龍岡城駅到着(9:00)
  2. であいの館見学(9:15~10:00)
  • 資料展示の見学
  • 続100名城スタンプ押印
  • 御城印購入
  1. 龍岡城跡見学(10:00~11:30)
  • 堀と土塁を一周
  • 展望台から全景撮影
  • 城内の様子を観察
  1. 周辺散策(11:30~12:00)
  • 移築された御台所櫓を外観見学
  1. 昼食(12:00~13:00)
  • 佐久市内で信州そばや佐久鯉料理を楽しむ

1日コース(約7~8時間)

午前中は半日コースと同様に龍岡城を見学し、午後は周辺の観光スポットを巡ります。

  1. 午前:龍岡城見学(半日コースと同様)
  2. 昼食(12:00~13:00)
  3. 新海三社神社参拝(13:30~14:30)
  • 国重要文化財の三重塔見学
  1. 川村吾蔵記念館(15:00~16:00)
  • 近代彫刻作品の鑑賞
  1. 旧中込学校(16:30~17:00)
  • 明治初期の擬洋風建築を見学
  1. 佐久平駅周辺で夕食・お土産購入(17:30~)

龍岡城に関する豆知識

なぜ「城」ではなく「陣屋」なのか

龍岡城は一般に「城」と呼ばれていますが、正式には「田野口陣屋」という名称でした。江戸時代、城を築くことができるのは一定以上の石高を持つ大名に限られており、1万6千石の小藩であった龍岡藩(田野口藩)には城主の格式が認められていませんでした。

そのため、形式上は「陣屋」(藩主の居館兼政庁)として築かれましたが、その構造は明らかに近代的な城郭であり、現在では一般に「龍岡城」として親しまれています。

「桔梗城」の別名の由来

龍岡城は「桔梗城」という美しい別名でも呼ばれます。これは、五芒星形の平面形状が桔梗の花に似ていることに由来します。桔梗の花は五枚の花びらを持ち、星形に開く姿が龍岡城の形状と重なることから、この雅な名前が付けられました。

松平乗謨(大給恒)のその後

龍岡城を築いた松平乗謨は、明治維新後に大給恒(おぎゅうゆずる)と改名し、明治政府で活躍しました。軍務官判事、兵部大輔、元老院議官などを歴任し、近代日本の軍制整備に貢献しました。晩年は華族として過ごし、明治43年(1910年)に73歳で亡くなりました。

龍岡城見学をより楽しむために

事前学習のすすめ

龍岡城を訪れる前に、幕末の歴史や稜堡式城郭について少し学んでおくと、見学がより充実したものになります。特に、函館五稜郭との比較や、西洋の星形要塞(ヴォーバン式要塞など)について知っておくと、龍岡城の設計思想がより深く理解できます。

写真撮影のポイント

龍岡城の魅力を写真に収めるには、以下のポイントがおすすめです:

  • 展望台からの俯瞰撮影:星形の全体像を捉えるベストスポット
  • 堀と土塁の接写:城郭の構造美を表現
  • 四季の風景:桜や紅葉と組み合わせた季節感のある撮影
  • 夕景:夕日に照らされた城跡の情緒ある風景

地元の方との交流

龍岡城周辺は住宅地でもあり、地元の方々が日常的に城跡を散歩しています。マナーを守って見学していれば、地元の方から城の歴史や昔の様子について話を聞けることもあります。そうした交流も、旅の思い出として貴重な体験になるでしょう。

まとめ:龍岡城の魅力と訪問の価値

龍岡城は、日本に2つしかない五芒星形の稜堡式城郭として、極めて貴重な歴史遺産です。函館五稜郭ほど有名ではありませんが、それゆえに静かに歴史を感じられる落ち着いた雰囲気があります。

幕末という激動の時代に、小藩でありながら最先端の西洋式築城術を取り入れた松平乗謨の先見性と情熱が、この星形の城郭に結実しています。わずか数年しか藩庁として機能しなかったという儚さも、歴史のロマンを感じさせます。

信州佐久の美しい自然に囲まれた龍岡城は、春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の表情を見せてくれます。城郭ファンはもちろん、歴史に興味がある方、美しい風景を求める方、のんびりと散策を楽しみたい方にもおすすめのスポットです。

ぜひ一度、この星形の城郭を訪れて、幕末の夢の跡を歩いてみてください。展望台から見下ろす五芒星の美しい形状は、きっとあなたの心に深く刻まれることでしょう。

地図

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